にんぎょの筺

名と声

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 このたび、フレンドのぺるら様に迷惑行為をしたことにつきまして、ぺるら様、および関係の皆様にご不快な思いをおかけし、大変申し訳ありませんでした。  具体的には、ぺるら様がアップロードされた改変済みアバターを違法スクリプトを使用して盗んだほか、VRChat、およびDiscordで録音したぺるら様のボイスデータをAIボイスチェンジャーに学習させ、アバターと声の両方を使ってVRChat内でのぺるら様へのなりすましを行いました。  このような行為はぺるら様の仮想空間でのアイデンティティを著しく損ねるものであり、VRSNSユーザーとしてあってはならない行為だと深く反省しております。  現在私のVRChatアカウント、およびパソコンに保存していたぺるら様のアバターとボイスデータは削除しております。今後二度とこのような行為を起こさないよう、デジタル空間に関する法律と倫理について理解を深めて参ります。  ご迷惑をおかけしたぺるら様、および関係の皆様には、重ね重ねになりますが心よりお詫び申し上げます。

 2

 先日はぺるら様にご迷惑おかけした件でお騒がせし、大変申し訳ありませんでした。  私の拙い謝罪文をご高覧いただきましてありがとうございます。あの投稿を行った日より多くの方から様々なご意見、ご鞭撻を頂戴し、改めて自分のしたことの重大さを認識しております。  二度と皆様の前には姿を現さず、謝罪文を投稿したSNSアカウントも消去するつもりでしたが、このたび皆様に本件の経緯を説明する義務があると考え、筆を執りました。  と言いますのも、皆様からの反応の中で、どうして私がぺるら様のアバターと声を盗み、なりすましを行ったかという理由について、説明を求めるお声が多かったためです。  それにつきましては、私などという無名のVRChatユーザーのことは知らずとも、ぺるら様をご存じの方ならご想像がつくことと思います。  ぺるら様はインターネット空間でも類い希な美声の持ち主であり、それを生かしてVRChat内外で声に関する活動を行っていました。  彼の声を言葉で表現するならば、それは奥行きのある澄んだ低音で、普通に雑談をしているだけでまるで吹き替え声優としゃべっていると錯覚するほどでした。それも女性が一目見れば卒倒するような、二枚目俳優のです。  実際にぺるら様は、どこで磨いたのだろうと疑問に思わずにはいられないほど演技の上手な方でした。彼はフレンドに頼まれれば快く台詞を読んだり、ロールプレイに興じて周囲を楽しませたりしていました。そういった気安いところも、彼の愛される一因だったのでしょう。  演技といえば、声だけではありません。ぺるら様は声に見合った美青年のアバターを改変し、その魅力を十二分に引き出す動きを得意としていました。  彼のアバターは、まだVRChat向けの3Dキャラクターとして、男性のものが少なかったころに発売されたものでした。彼はそれを巧みに改変し、美しい衣装を着せ、ほとんどワンオフアバターと呼んで差し支えないほどのオリジナリティあるものに仕上げたのです。  二枚目アバターを着ているからと言って、それにふさわしい動きができなければどこか残念な印象を与えてしまうのがVRChatの常です。その点ぺるら様は完璧でした。彼は現実でどのように立ち、手足を動かせば、3D空間で美しく見えるかすべて把握しているようでした。さらには自分の振る舞いが、指先一つのそれまで、他人にどんな影響を与えるか識っているような印象を常に抱かせたものです。  多くの人がぺるら様と話したがり、彼の写真を、できることなら彼と二人きりで写った写真を撮りたがりました。彼の周りには自然と人が集まり、イベントキャストをしているインスタンスはいつも満員でした。  そう、ぺるら様はみんなの人気者、VRChatのスターだったのです。  私はと言えば、先に申し上げたとおり無名のVRChatユーザーでした。まったくの無名ではなかったかもしれませんが、それは私がある団体に所属していたということに過ぎません。それは私がぺるら様のことをここまでつぶさに知っていて、その観察を絶えず行っていたことからご推察できるかもしれません。  私は、ぺるら様と同じイベントに所属するキャストでした。と言っても、私の人気も実力も、ぺるら様には到底及ぶものではありませんでした。私も声の演技を数年かけて磨き、趣味の範囲ではありますが声劇などをして遊んできた人間です。多少は声に関する自信がありました。それを生かすべく、美声のキャストが接客するイベントに応募したのです。  幸い、いえ、今となっては不幸かもしれませんが、私はそのイベントに合格しました。キャストとして活動し、生まれ持った声では周囲のキャストに及ばずとも、会話でお客様を楽しませようと尽力しようとしました。  しかし、私のファン、と呼べる方は、そうそう現れることはありませんでした。私はイベントに来られた方を見逃さず、入り口付近で案内こそしますが、彼らはすぐに他のキャストのもとへ行ってしまうのです。わざわざ私目当てにイベントに来てくれる方もおらず、イベント終了後にお客様がアップロードするスクリーンショットに私が写っていることは滅多にありませんでした。  私はリアルでも接客の仕事をしています。大学中退後きちんと就職はできなかったので、小売店のアルバイトですがお客様の応対は慣れているつもりでした。VRChatに来る以前も複数のコミュニティに所属し、そこでいなくてはならないパーソンとして重宝されていた自負がありました。  しかし、それらはこの接客イベントでいとも容易く砕かれたのです。私の姿は誰の目にも留まらない。私の存在は誰の記憶にも残らない。私は深い、深い、絶望の谷に落ちました。  このイベントのキャストの中には、スキルを伸ばしさらに別のイベントへと引き抜かれていく者もいました。さらにはVTuberとして活動したり、公のイベントで店員を勤めたりする者もいました。私にそういった声は、一度も、かからなかったのです。  私はあのイベントの底辺キャストでした。アバターはかっこうよかったはずです。なぜなら、誰もが最初は私のことをかっこういいと褒めてくれたのですから。  足りなかったのは、私の中身のほうなのです。皆すぐに私の中身が空っぽで、魅力がないことに気づき、離れていったのです。イベントの中でも、私の友達と呼べる方はいませんでした。  ぺるら様だけは例外でした。彼は私がまだ他のイベントのキャストと仲良くなろうと声をかけていたころ、それに応じ、個人的に遊んでくれました。他のキャストは誘っても断るか、少し遊んで別のインスタンスに移動してしまうかしていましたが、ぺるら様だけは人気者にもかかわらず、誰よりも私に時間を割いてくれたのです。  彼は私の前で、イベント中は口にしないような軽快なジョークを飛ばし、アバターを変えて一発芸を演じることさえありました。しかし基本的にはその優しい性根から来る親切な振る舞いを崩すことなく、私がワールドの操作に躓いているときはあの落ち着いた声で丁寧に教えてくれました。自分のフレンドがジョインしてきたときも、私を紹介した上で会話のパスを回してくれました。  ぺるら様と個人的に話すようになる以前は、彼のことをどこか近寄りがたい、それこそスターだと思っていました。しかし、彼のことをよく知るうちに、美声と振る舞いへの評価はそのままに、彼に強い親しみを抱くようになったのです。  誤解していただきたくないのですが、私はいわゆる同性愛者ではありません。リアル、VR関わらず恋愛対象は女性ですし、女性になりたいという願望も持ち合わせていません。使用しているアバターも男性のものです。  ただ、私のことを妄執に囚われたVRChatterとなじる前に、想像してみてほしいのです。声優のように美しい声が、VTuberのように美しい顔が、私だけに向けられている。端正な四肢が私だけのために曲げられ、こちらを弄する動きをする。  どうして虜にならずにいられましょう。好きにならずにいられましょう。私が彼のファンであることは疑いようもなく、私はその想いを、不可侵にして誰よりも強いものと信じていたのです。  私はイベント以外の日はいつもぺるら様にジョインしました。彼は大抵私の知らない人々に囲まれていましたが、彼らは私とぺるら様が親しげに話しているのを見て取ると、初対面の私に一目置いたようでした。向こうからフレンド申請をしてきて、にこやかに話しかけてきます。ある程度の回数彼らと私が顔を合わせ、私の中身が彼らに知られるまでには、彼らも私のことを無下に扱うことはしませんでした。  というのも、しばらくすると彼らの中には、私の存在を邪魔に感じていることを隠す気がない言動をする者や、私が去った後に私の陰口を言う者が現れたのです。  私のことをぺるら様の金魚の糞と言った者と居合わせたときには、彼女に対抗心を燃やしてぺるら様を中心としたインスタンスに居座り続けました。彼女は次第に口数が少なくなっていった挙げ句、ぺるら様に嫌われる振る舞いはしたくないと思ったのか、自らインスタンスを去りました。私は内心、ほくそ笑みました。  そんなふうに、ぺるら様への独占欲が高まっていたからでしょう。普段ならばお気持ちと一蹴できるSNSの投稿に、私は激昂したのです。  それは相互フォロワーが再ポストしたポストでした。内容は何度もSNSでこすられてきたような内容でしたが、その『才能ある人間と一緒にいるからといって、自分も才能ある人間になっていると勘違いするのは愚かしいことだ』という一文は、私の胸に強い灼熱感をもたらしたのです。  私はそのポストをしたユーザーをブロックし、再ポストしたフォロワーもミュートしました。彼は私と同じイベントに所属する、ぺるら様と仲の良いフレンドでもありました。彼はもしかしたら私のことを指して再ポストしたのかもしれない、とまでこのときは思ったのです。  そうであれば、彼は私のことを勘違いしていました。私はぺるら様と自分の差を明確に認識し、初めて遊んだときから、どうしてこんなにすごい人が自分などと遊んでくれるのだろう、と思っていました。イベントにおいてキャスト同士で会話をする機会には、ぺるら様の魅力を損ないたくないので彼と組むことは避けましたし、ごく稀に組んだ際は、自分の実力不足を痛感しました。  それでも、彼と話すことは楽しく、他のキャストと組むより強い手応えを感じました。それは私がぺるら様を好きだからであり、私まで上手くなっていると錯覚するのは傲慢です。  私がぺるら様のようになれるわけがないのです。ぺるら様のような外見を得たとして、あの美しい声と、あの優れた性格がなければ、人気者になるなど夢のまた夢なのです。  私はただ、皆に愛されなくても、ぺるら様がフレンドでいてくれればいいと思っていました。  ぺるら様だけが本当の私を見てくれる。その上で、仲良くしてくれる。  彼さえいれば、他の誰からの愛も要らないと本気で考えていたのです。  その考えは、ある日を境に反転します。  忘れもしない、三月の寒い夜のことです。  その日も私はぺるら様の立てたインスタンスで彼のそばに陣取り、彼と周囲の話を聞きながら時々それに口を挟んでいました。ぺるら様以外は私の様子を気にも留めませんでしたが、ぺるら様だけは私がなにか言うたびにこちらを向いて笑ってくれました。  だんだんとインスタンスから人が去って行き、やがて私とぺるら様だけが残りました。  私は久しぶりにぺるら様と二人きりになれたのが嬉しくて、最近自分に起きたことを話しました。  ぺるら様は退屈なはずのそれに快く耳を傾けてくれました。そして私が話すのに満足したのを見て取ると、こう枕詞を置いて、語り始めました。  もう終わってしまった話なんだけれど、少し前にこういうことがあってね。  彼の話の内容は、こうでした。  実は自分は既婚者で、それが身内サーバーに所属しているファンの女性に知られた結果、自分に本気で恋をしていたらしい彼女が怒ってサーバーを抜け出してしまった。  そのサーバーを使い続けるのも気が沈むから、新しいサーバーを立てたが、こういうことが起きると気が滅入る。  と言っても、似たようなことは何度か起きているから、原因は自分にあるのだろう。今後はいっそう気をつけていかなければならない。  そう、アドバイスや、慰めを求めるふうでもなく、ただ自己完結した話を、ぺるら様は私に語りました。  彼は最後に、聞いてくれてありがとう、と言いました。なにか感想があれば言ってくれ、私のことを馬鹿にしてくれても構わない、とまで添えました。  私は、それ、何月ごろの話、と訊きました。  馬鹿みたいな質問に、ぺるら様は、去年の暮れかな、と答えました。  私は、そっか、と言い、大変だったね、と到底気が利いているとは思えない、役に立たない同情を口にしました。  ぺるら様は短く肯定の返事をしたあと、打って変わって明るい声で、そんなことがあったから、これからも君には変わらず遊んでほしい、と言いました。  自分がなんと答えたのか、覚えていません。  ぺるら様が立ち上がり、いつも通り優雅な礼をしてインスタンスを去るのを、呆然と見送りました。  空を見つめながら、冷え切った指先一つ動かせません。  ただ頭の底のほうで、ぐるぐると、濁流のような思考が渦を巻いていました。  彼は結婚していた。それを私に言わなかった。  彼には身内サーバーがあった。それに私は所属していなかった。  彼は一連の話を私にするつもりはなかった。トラブルが起きてから時間が経過しており、私の助言や慰めは期待していなかった。  私は彼にとって蚊帳の外で、頼るに値しない幼稚な人間で、私と彼は、関係がなかった。  そう、私はぺるら様に突きつけられたも同然だったのです。  彼が最後に笑っていたのは、その事実を誤魔化すための愛想でした。  私は、怒りました。泣きました。次の日アルバイトを休みました。しばらくVRChatに行けませんでした。イベントキャストも欠勤しました。  そうして、様々な思考と感情を経て残ったのは、憎悪でした。  彼は私が私である限り得られないものを持っている。  それは人気で、伴侶で、外見で、それを得るための技術で、美しい声で。  そばにいれば独り占めできると思った。彼の最も親しい人になれば、それが自分に価値を与えてくれると信じていた。  けれども、事実は、私の夢とは程遠かった。  彼は私の手に入らない。彼と私はただのフレンドで、それは名目以上のものでは決してない。  ただの一般人のくせに! あなたがちやほやされるのは、ここがVRChatで、そこそこいい声に美しい外見がついているからだ。  それがなければ、あなたは何者でもない、ただの成人男性に過ぎない。  だから、奪おうと思いました。  彼のアバターを。声を。  私は海外ユーザーが密かに運営しているファイル共有サーバーに入り、アバターリッピングのためのスクリプトを入手しました。  同時に、当時テクノロジーに興味のある人々を驚かせたAIボイスチェンジャーをパソコンにダウンロードし、それを操る方法を学びました。  私は、ぺるら様の望んだとおり、彼と変わらず遊び続けました。  彼のアバターを盗み、彼の声を収集しながら。  その裏で、ぺるら様の口調と動きを再現するための修練を積みました。  おそらくあの期間は、私が最も演技に熱を入れた時間だったでしょう。  計画を実行に移せたのは、あの絶望の夜から十ヶ月後のことでした。  私はぺるら様のIDとごく似たIDを取得し、彼のアバターを纏ってPublicインスタンスに現れました。  そして、鏡の前にいた人々に話しかけます。 「こんばんは」  私のリアルの発声から遅れて、アバターの唇から奥行きのある澄んだ低音ボイスが流れました。その場にいた人々は振り返り、私に挨拶を返します。少し話しただけで、私は初対面の彼らから、私が生涯向けられたことのない好感を抱かれていることに気づきました。  離れたところにいた人まで近づいて来て、彼らは口々に、私の声を、アバターを、褒めました。  いつの間にか、私の周りには人だかりができています。  それはかつて、私がぺるら様のインスタンスで見た光景でした。  同じものを今、かつてのぺるら様の視点で見ているのです。  もう端で見て羨むのではない。手に入らないと嘆くのではない。  確かに盗んだ。けれどもそれを生かせるよう、声と動きの演技を磨いたのは私だ。  大嫌いなあいつに何度もジョインして、それを聞いて、見て、真似したのは私だ。  私だって頑張ったんです。だからこの努力は、報われなきゃならない。  だからこの名声は、私のものだ。 「その声、私のフレンドのぺるらだよね?」  その場にいた人々が、一斉に発言者を振り返ります。  彼はインスタンスに入ってきたばかりのユーザーでした。背の低い女性アバターの彼に、私は慌てて挨拶します。彼は怪訝そうに言いました。 「なんですぐ挨拶してくれなかったの? 調子悪い?」  咄嗟に私は、その通りだ、と返事をしました。  彼は、あれ、と口にし、私を頭のてっぺんからつま先まで眺めます。 「サブアカ? でもIDほぼ同じだし、話し方や動きもぜんぜん違う」  頭から冷水を浴びせられたように動けないでいる私に、彼はとどめを刺しました。 「君、ぺるらのなりすましでしょ」

 その後の騒動は、ご存じの通りです。  私は気づきませんでしたが、私の行動を不審に思ったユーザーによってあのインスタンスの様子は録画されており、それはSNSにアップロードされて瞬く間にVRChatユーザーに広まりました。  彼らは加害者に怒りを、被害者に同情を示し、次に、あの人気者のぺるらさんになりすましたのは誰か、という犯人捜しを始めました。  私は布団の中でスマートフォンを握りしめて震えながらも、そうそう見つかるはずはない、と高をくくっていました。  ぺるら様からメッセージが届いたのは、その次の日のことでした。  そこには、話があるからVRChatに来てほしいと書かれています。  私は、終わった、と思いました。  逃げようとはつゆほども考えませんでした。ここで呼び出しに応じなければ、よりいっそう事態は悪化する、それは確かだと思えたのです。  私は、ぺるら様と会うことにしました。  VRChatにログインし、ホームワールドで彼を待っていると、ぺるら様がジョインしてきました。  彼はいつも通り和やかに挨拶をし、そのトーンのまま、本題に入りました。  最近現れた私のなりすまし、あれをやったのは君だね?  私はその瞬間、床に身を投げ出して、すべての罪を告白して許しを請いたい衝動に駆られました。  喉から漏れたのは、うん、というかぼそい返事だけでした。  ぺるら様は、そう、とだけ答え、続けます。  ああいった行為はやってはいけないのは分かっているね? VRChatの規約違反だし、私も困る。  私は再び、うん、と言いました。あれは、と私が口を開いたのにかぶせて、ぺるら様は言います。  二度としないでね。  私は、はい、と答えました。ぺるら様はそれを聞くと、満足そうに返事をし、別れの挨拶をしてインスタンスを去って行きました。  私は、許されました。  きっと、ぺるら様はそれ以上罪の追及はせず、それを他言することもないと信じられました。  それは、彼の諭すこともなく、言い訳する隙も与えない姿勢から、愚鈍な私でも、よく分かったのです。  罪の重荷こそ下りましたが、私の憎しみは、嫉妬は、憧れは、行き場を失ってしまいました。  安堵しながらも、どこか覚束ない心地で、その日は眠りに就いたのです。  しかし、事態は思わぬ展開を迎えます。  ぺるら様と会ってから一ヶ月ほど経ったころ。そのころにはすでに、ぺるら様のなりすましに関するほとぼりも冷め、私はぼちぼちとVRChatへのログインを再開していました。  よく晴れた冬の朝のことでした。鳴り止まないスマートフォンの振動で目を覚ました私はその画面を見て、表示されているポストに目を見張りました。  ぺるら様になりすましていた犯人の正体、それはこの私であること。  動画を検証し、ぺるら様のボイスデータを収録できるほど近しい人物を洗い、イベントの録画やサンプルボイスと比較した結果、該当する人物が私であると特定したこと。  私の家のポストには、発信者情報開示請求まで届いていました。  それらは、ぺるら様の過激なファンの方々によるものでした。  今度こそ、本当に、終わりでした。  SNSのタイムラインは、私の罪を暴いたポストに関する反応で埋まっています。それらはほとんど非難で、私のことを前々から知っている、知っていないに関わらず、この不届き者の人格否定をする者までいました。  もう、逃げることも、隠れることもできません。  そうして私は、あの謝罪文を掲載することになったのです。  非難はいっそう確信の色を持って届き、VRChat関係者だけではなく、テクノロジーに興味のある一般の方々まで、私の行為に言及しているのが目に入りました。  インターネット上のアイデンティティについて、その所在を問う声。AI技術に対する警鐘。  それらが鳴り響くインターネットに、私はもう、私のまま、居続けることはできません。  このnoteを最後に、私は皆様の前から永遠に消えます。  皆様に一つ、お願いがあります。  私に関しては、なんと言っていただいても構いません。  ただ、ぺるら様には、本件に関する問い合わせを送る、VRChat内で触れる等の行為をするのはお控えください。  私たちの間では和解は済んでいます。優しく残酷なぺるら様は、私のしたことを、私の声を聞かぬまま、赦してくださいました。  彼に、これ以上の心労はかけないようお願いいたします。  自らの野心のために、彼のアバターと声を盗んだ私の言うことではないかもしれませんが。  彼がもう、この件で思い悩まされることのないよう望みます。

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 ぺるらさんあの件のこと笑ってたし、元気そうで安心した~。

#VRChat #コンプレックス #短編